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願い

​Author: Saito Rei

 ずっと、考えてきた。体育会系男子の頭の構造がどうなっているのか、ということを。彼らの性格は非常にざっぱくらんとしているというか、よく言えば、どんな時代の波にも乗り越えられるというといったところか。そんな彼らの性格を支配する頭の構造を、私は理解してみたいのだ。いきなり何を訳のわからないことを、と言われると私としても気分を害するので、ここで少々自分の自己紹介をしておこうと思う。

 私は、現在大学一年生。偏差値は高くも低くもない、少し勉強すれば誰でも合格することができる大学に通っている。そして、私は完全な文系人間であり、換言すれば、体育会男子とは真逆の存在ということになる。入学したての頃は、言葉で言い表すことが不可能なくらいの緊張というものを味わった。電車とバスで通うため、時間を間違えていないかということや、違う電車に乗っていないか、ということ。また、満員電車の中ではなるたけ人と接触しないように身を潜める、ということも。まあ、とにかく私はそういう性格なのだ。敏感、繊細、悪く言えば細い精神とでもいうべきか。それに加え、友人、と呼べる人間が記憶の中にない。小学校も中学校も高校も特別仲がいい人間はいなかった。その代わり自分の時間は常に読書に使い、豊かな心を育てるように努めてきた。

 だが、やはり学校という場は皆の共同意識の上に成り立つものであるから、すなわち、たくさんの人間が集まる場所であるから、他の人間の態度、言動、その他諸々が嫌でも見えてしまうのである。そこで惹かれたのが、体育会系男子の不思議さだ。もちろん他にも気になる人間の性格はいくつかあったが、私は特に体育会系男子に魅惑を感じた。ホモとか、そういうことじゃない。ただ単に彼らの頭の構造を私は解明したい衝動に駆られただけなのだ。

 今までは勉強やら自分の読書やらに時間を費やしてきたため、彼らの生態を研究する暇がなかった。人付き合いが苦手という理由もなくはないのだが……。まあいい。人間何かと理由をつけるときは、まともな、あるいはもっともな言い訳をしたいものだ。そうだろう? それとも、そう感じるのは私だけなのだろうか。しかし今までほとんど人付き合いのなかった私には、理解し難いのが本音だ。

 新たな門出を迎え、私は勇気ある一歩を踏み出すことをここに誓おう。いつまでも自分の世界に閉じこもっていてもしょうがない。その衝動はどこから来るのか、それはきっと、今まで胸の内に秘めてきた、人を恋しく思う気持ちが覚醒したところからだろう。それはさておき、まずは彼らの生態を観察すべく、グラウンドへと向かうことにする。ふと頭上を見上げると、水色なんてありきたりな言葉ではなく、もっとこの空の色を情緒豊かに表現してみたいと思うのに、いい言葉が思いつかない。遠くにいくほど空の色が少し白んで見える現象も私には説明がつかない。数多くある疑問の中の一つの解決へと今乗り出した自分は、一体どういう答えにたどり着くことができるのか、純粋に楽しみに思う。

 見つけた。芝生のグラウンドには、私はサッカーをやっていますという甚だしいぐらいのアピールを感じさせる服を着た男子がいる。五人ほど。

 その時、一匹の蚊が飛んでいるのを私は見つけた。蚊は血の気が多そうな野生的な人間を好むとばかり思っていたのに、どうして私なんかのようなひ弱そうな人間のところに?

 すると、私はかつて経験したことのない驚愕的な事実を目の当たりにした。

「俺は蚊だ。お前は自分を見失っているんだよ」

 なんと、蚊が人間の言葉を喋ったのだ!

「もとの自分に還れ__」

 

 

……………………夢を、みていたらしい。自分がインテリ男だった夢を。

 

 

 自分の性格は、自分が一番よく知っている。現実に生きる、体育会系男子の自分が。なのにこんな夢を見たのは、俺の性格が、俺自身の中にまだ腑に落ちないところがあったからだと思う。結局、自分の性格が完全に理解できるということはない。よって、相手の性格を理解するのはとても難しい。なぜなら、俺たちは思い込みという行為を無視して自分や、他人という存在を決めてしまうことがあるからだ。全ての人間は生まれた時から純粋無垢のまま、生き続けていく。そして自分の性格と思っているものは、全部、幻想なんだ。思い込みなんだ。だから俺たちは変わることができる。いや、変わるというよりは、この世界を旅するように、自分の性格を転々としていくんだ。どんなところからでも、一から始めることができる。新たなスタートを切って、まだ見たことのない未来を描いていく__それが、俺の見つけた真実だ。

 

 

 自分を見失った全ての人に、俺の拙い思いが伝わりますように__。

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