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ここで会ったか100万年

​Author: Saito Rei

「あー、遅刻しちゃう!」

「ちょっと明美、朝ごはんぐらいちゃんと食べて行きなさい!」

「えーだってもう行かないと、またあのハゲ担任に怒られるから」

「でも少しは食べないと」

「もー、じゃあ漫画の主人公みたいにパンを口にくわえていくわ」

「そんな! お下品じゃない。あ、ちょっと待ちなさい、明美!」

「行ってきまーす!」

 

 

「あー、電車一本逃しちゃった。でも次のに乗ればギリギリ間に合うわ」

 ドンッ。

「あ、すいません」

「え、ああ」

「さあ早くホームに行かなくちゃ。定期定期……って定期がない!? えーもうどこいっちゃったんだろう。どこにもないよー。はっ、ま、まさか! (さっきぶつかった奴にスられたんだわ! だって財布もないし!)」

「どうなされた御仁」

「え、は、はい? (うわー、なんかマジで変なやつきたわー)」

「随分とお困りのようであるが」

「あ、あの、私全然困ってませんから!」

「もしかして財布を落としたとか?」

(なに、こいつは超能力者か!?)

「あ、あの、そういうわけでは……ない……ということもないです」

「では私がお金を払いましょう。いくら必要なのですか」

「い、いえ! そんなとんでもございません(もしかして援交めあてとか? でもこんなみるからにインテリな高校生が援交なんかするかフツー?)」

「別にエンコー目当てではないぞ」

(ああ、やっぱり超能力者! でも今は急いでいるからここは甘えさせてもらおう)

「あ、あの、知立まで行きたいんですけど……」

「了解した。ではご一緒します」

(えっ、今なんて言ったこいつ)

「い、一緒に来るんですか?」

「もちろんですとも。何か異論でも?」

(めっちゃあるわ! でもあんまり言うと何いい出すかわかんないから、ここは素直に従っておいた方がよさそうだな)

「べ、別に大丈夫です……よ」

 

 

「はー間に合ってよかったー」

「まだ電車の中ですよ。油断は禁物です」

(あ、そうだこいつも一緒だってこと忘れてた)

「そ、そうですね……」

(それにしてもなんなんだよこいつ。敬語っぽい言葉で喋ってるけど、なんか変な言葉遣いだし、しかもなんでこんな時間に私と一緒にいるのか……)

「大学生の方ですか?」

「え!」

(突然話しかけてくんじゃねえよこいつ。漏らしちまいそうになっただろうが)

「そ、そうですよ。あなたは……高校生?」

「まあ、そんなもんです」

(また微妙な返事〜)

「学校にはいかなくていいの?」

「いけませんよ。今は御仁のお相手をしているのですから」

(私のせいかい! しかも御仁ってなんやねん!)

「そんな……。私の相手なんてしなくてもいいのよ」

「そうはいきませんよ」

「な、なんで?」

「なんでもです」

「……あっそ……」

 プアーン。

「あら、急に電車が止まったわね。まだ駅についていないのに」

『お客様にご連絡します。ただいま、次の駅で人身事故が発生したため、一時運転を見合わせております。お急ぎのところ大変ご迷惑をおかけします。新しい情報が入り次第、またご連絡します』

(えー! もう間に合わない!)

「もうちょっと早かったらよかったですね」

「これでもう完全に遅刻だわ……」

「でも、今日日曜日ですよ」

「え?」

「今日は日曜日です」

「あ……ほんとだ」

「その様子だと、あなたは学校に行くつもりだったようですね」

「……」

「でもこれで一安心ですね。今日、学校は休みのはずですから」

「どうしてそんなことが言えるのよ。部活に行くかもしれないじゃない」

「あなたのことはなんでも知っています。興信所を使って調べましたから」

「はぁ!? 何言ってるの? あなた一体何者?」

「あなたの兄弟です」

「馬鹿も休み休み言いなさい。私は一人っ子よ」

「あなた、母子家庭ですよね」

「それがどうしたのよ」

「お父さんはどうしたんですか?」

「……」

「まあ、言いたくないのも無理はないでしょう。あなたのお父さんはあなたが小さい頃、愛人をつくって出ていったのだから」

「……じゃあ、もしかしてあなたは……」

「そうです。僕はその愛人とあなたのお父さんの間に生まれた子どもです」

「どうして調べたりしたのよ」

「ただ単に気になったからですよ。もしかしたら自分には血の繋がった兄弟がいるんじゃないかってね。父に聞いてみたこともありましたが、教えてはくれませんでした。だから興信所を頼ったのです」

「それで?」

「得られた情報をもとに、あなたに近づこうとした結果が、これです」

「……ふーん。あなたにとってそれはよかったの?」

「よかったですよ。それなりに」

(それなりにとはなんだ!)

「あなた学校に友達いないでしょ」

「もちろんですよ」

(もちろんですよ、なんて答えるか普通……)

「寂しくないわけ?」

「寂しいですよ。でも仕方ありません」

「……………………」

「……海にでもいきませんか」

「海?」

「はい。吉良吉田よりちょっと行ったところに、いいスポットがあるんです」

「仕方ないわね」

 

 

「やっぱり海は青いわね」

「そういうあなたの顔も青いですね」

「当たり前じゃない。こっちは財布をスられたのよ」

「それなら、ここに」

「え、ちょ、なんであんたが私の財布を持ってるわけ?」

「あなたがバッグの中をゴソゴソしてる間に、あなたの財布を盗んだ相手から僕が財布を盗んだんですよ」

「もう少しわかりやすく説明できないわけ?」

「できるかもしれませんね」

「……まあいいけど。ありがと」

「礼には及びません」

「夕日が綺麗ね」

「そうですか」

「もう少し気の利いた返事してよ」

「そうでございますか」

(んもー、何よこいつ!)

 

 

「また会えるかしら」

「さあ、会えるんじゃないですかね」

「海、行ってよかったわ」

「礼には及びません」

「私、まだお礼言ってないんだけど」

「あ、そうでしたね」

 

 

 二人は笑いあった。

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