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地球の明日

​Author : Kojima Ryota

膨大なエネルギーを内包した光線が眼下の街並みを焼く。融解したガレキが轟音を立てて崩壊していく半面、悲鳴や断末魔はほとんどあがらない。かつては1000万の人口を誇った我が合衆国の首都は、大気圏からの度重なる蹂躙により見る影も無くなっていた。原形を留めているのは我々が籠城するこのホワイトタワーのみである。

他の建造物の追随を許さない地上1000メートルの高さを誇った天空の要塞も、周りの比較対象が無くなってしまえば荒れ地にひとりポツンと佇むデクノボウと変わらない。事実、この惑星の覇権を握っていた我が合衆国の官邸としての機能はほぼ失われていた。

「この星も美しくなったなぁ」

声は大会議室の一番奥から発せられた。世界の覇者たる我が合衆国の大統領のみが座れる玉座に君臨するその大男は、今ではただ背を丸めて哀愁を漂わせていた。

「美しさとは、つまり人類が絶滅したこの景色そのものだよ。そうは思わないか?」

すかさず私はこう答えた。

「大統領閣下、弱音などあなたらしくもないでしょう」

「敗者に似合うセリフなどあるまい。ならばせめて、最後くらいは自由に独り言を呟かせてくれ」

「はは、ご冗談を。SNSではあなたの自由奔放な呟きひとつで世界を右往左往させていたものではありませんか」

笑いは起きなかった。

当然だ。大会議室には私と大統領の二人しかいなかったのだから。いつもなら気を利かせて愛想笑いを絶やさない合衆国首脳陣の面々は、あるいは軍事拠点で戦死し、あるいはテロに巻き込まれて国民に殺され、あるいは妄執に取りつかれて自殺した。

「……あぁ、それにしてもデカい。ヤツら、どうやってあんな重そうなものを浮かせているのだ?」

「さぁ。きっと脳にヘリウムでも詰まっているのでしょう」

私たちが窓から見上げるのは、敵の宇宙船だ。今もなお巨大なパラボラアンテナのような装置から光線を射出して大地を燃やしているそれは、たった3機による交代制でこの星を滅ぼした。

「我々の技術力もそれなりだと自負していたのだがね」

「相手が悪かった。この戦争に関してはその一言に尽きます。閣下が気に病むことではありません」

「全くその通りだ。しかし、ヤツらの目的については最後まで分からずじまいだったな」

そこは最大の謎だった。宣戦布告も降伏宣告も確認できず、戦争とすら呼べないほど一方的に人類は滅ぼされていたのだ。

しかし、人生の最後に考えることがそれでは味気ないだろう。私は頭を振って思考をリセットした。

「おおかた、我々は新型兵器の実験台にでもされたのでしょう」

それからしばらくの間、大統領は窓の外を眺めながら黙り込んだ。私も同じように窓へと目を向けたが、真っ赤に染まる地平線に何も見出すことができかった。

「……我々は、どこに向かうのでしょうか」

沈黙に耐え切れず漏れ出た言葉に、先ほど大統領を勇気づけようとした自分の言葉を思い出して、思わず苦笑してしまった。そこでようやく大統領の目にも笑みが浮かび、私たちは窓外の景色から目を離した。

「そりゃあもちろん、我々人類に残された道は絶滅しかあるまい」

「あぁいや、そうじゃなくて。言い方が悪かったですね。“我々”というのは、ヤツらも含めての話です」

「ほう? では逆に問うが、どうせ滅びゆく我々をヤツらと同じ存在として扱う意味があるのかね?」

「私は、あると思います」

私が思うに、我々はたまたま惑星間戦争を経験したことが無かったがために「同じ星に住むみんなで力を合わせて敵惑星勢力に抵抗しよう」という発想にいたるのだ。しかし規模を変えてみれば、見方も変わってくる。同じ国に住んでいても敵対する人間はいるし、なんなら考え方にはひとりひとり違いがある。ならば、惑星を最大単位として考えるのではなく、もっと大きなくくり——例えば宇宙規模——での知的生命体として考えれば、我々もヤツらも同じ“我々”として考えることも可能ではないだろうか。

私はそう説明したが、大統領は首をひねったままだった。

「ヤツらは圧倒的な力を持っている。そのうえでヤツらが我々を惑星単位でモルモットと捉えている限り、我々とヤツらはあくまでも相容れないものだと思うのだがね。まあしかし、キミの言いたいことも分かる」

「ありがとうございます」

「だが、それでも答えは変わらないだろうな。ヤツらもいずれ滅びるときが来ると思う」

そう断言した大統領の表情には、少なくとも諦めや悲観といった色は見えなかった。

だから私は、精一杯の悪意を込めてその言葉に応えるしかなかった。

「えぇ、そうでしょうね。私もそう思います」

ふと窓の外に動きがあったので目を向けてみると、ヤツらの巨大パラボラアンテナが我々へと向けられていた。

これで我々の物語はおしまいだ。

ひとつだけ後悔があるとすれば、それはヤツらの明日がどのようなものになっているかを見届けられないことだけだ。

ヤツら、すなわち地球人が、滅んでいることを願って。

 

 

 

 

どうでしたか? このSSのキモは、ズバリ2つです。

ひとつはタイトル。意味深に見えますが、実はただのダジャレです。地球を英語で言うと? ……はい、そういうことなんですね。正直に言うと、このダジャレが言いたかっただけです。ガハハ。

次にふたつ目。これは、引っかかってくれた人は少ないかもしれませんが、著者の意図では「最後に『ヤツら』の正体が地球人だと明かされてビックリ!」という叙述トリックもどきにしたかったのです。『我々』を地球人だと勘違いするようなワードを散りばめておいたんですが、引っかかりましたか? え? 引っかかっちゃったの? ふっふっふ。

内容とかあらすじについて語るべきことは何もありません。著者の書きたかったことが書かれています。

いろいろとネタを考えて、推敲して、2日かけて完成させました。時間の無駄でなかったのなら幸いです。

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